キュレーターはトリックスターであるべき
展覧会を企画し、アートシーンを引っ張っていくキューレーターという職業。
しかし、キュレーターとひとことで言っても、
専門分野、所属している施設によって
その仕事内容には違いがあります。
シリーズ2回目の講師は、
森美術館チーフ・キュレーターをつとめる片岡真実さん。
講義場所となったラウンジには片岡さんのお話を聞こうと
たくさんの生徒さんがいらっしゃいました。
「今日はキュレーターという仕事が、一体どういったものなのかを
みなさんと一緒に考えていきたいと思います」
将来、キュレーターを目指しているという受講生も見られるなか、
いよいよ講義がスタートです。
まずはある書籍の一節が紹介されました。それは......
ルイス・ハイド(著)『トリックスターの系譜』
神話や物語に度々登場し、いたずら好きのキャラクターとして
描かれる"トリックスター"。
片岡さんは、キュレーターにはこのトリックスター的な要素が
求められると語ります。
「トリックスターは内と外といった境界を自在に行き来することができる存在。
インスティテューション(美術館所属)におけるキュレーティングには、
さまざまな二面性があります。大衆性と批評性、伝統・歴史と現代性・先端性......。
自分がどこに位置しているかを把握しながら、枠組みを越えた視点や創造力を
持つことも必要なんです」
施設を維持していくためには、もちろん集客を無視することはできません。
一方で、大衆性とは離れた批評性のある企画も必要です。
そのため、展覧会作りは試行錯誤の連続なのだそう。
「展示をひとつ作る度に、"これが何かの答えになるかもしれない"と考えています。
会期が終了したあとはさまざまな反省要素に気づくこともありますが、
それを受けて次の企画を考えることができるんです」
いくつもの展覧会を積み重ねることは、ひとつの歴史を作ること。
片岡さんは、そこにインスティテューションの可能性を感じているそう。
しかし、国際展やアートフェアなど、作品を発表する場所や、
目にする場所は美術館以外にもどんどん増え続けています。
また、現代美術の作家もこの世界にはたくさん存在しています。
それらすべてを把握するのはおそらく至難の業......。
そんななかで、インスティテューションのキュレーターに求められる能力とは?
「キュレーターは料理人に似ているかもしれませんね。
"目の前にある素材をどうやってお客さまにおいしく食べていただくか?"
それを考える必要があります。
インスティテューションの場合は、会期中の来場者数も日々目に入って
きますから、反応をダイレクトに感じることができるんです。
同じ場所にいられるからこそ、さまざまなアプローチを試すこともできる。
その環境をいかし、境界線を自由に行き来できるトリックスター的な思考、
テーマや作家をセレクトして見せ方を考える編集能力が今まで以上に
求められてくると思います」
この後、片岡さんが手がけられた展覧会から
『笑い展』(2007年)、『アイ・ウェイ・ウェイ展』(2009年)、
『ネイチャー・センス展』(2010年)をピックアップして
企画立案の経緯や、参加作家についてお話していただきました。
あっという間に90分が経過し、
キュレーターの未来についての言葉で、講義は締めくくられました。
「キュレーターも、映画監督のようにいろんなタイプの人が活躍するようになれば、
見る側もこれまでとは違った見方ができる時代になると思います。
出品作家の名前に観客が興味を惹かれるのと同じように
"この企画は、○○さんだから行ってみようかな"と、キュレーターの名前で
興味を持つケースがあってもいいと思いますね」
確かに、記憶に残っている複数の展覧会を調べたら
同じキュレーターの方が手がけられていたりするんですよね。
片岡さんのおっしゃることにも納得です。
次回、2月10日(木)『キュレーターの仕事3 アーティストと共につくり、発信する』の講師は
インディペンデント・キュレーターとして活躍されている窪田研二さんです。
美術館に所属せず、フリーランスで活動するのがインディペンデント・キュレーター。
毎回異なる現場で仕事をするため、インスティテューションのキュレーターとは
また少し違った視点、アプローチが見えてくるはず!
10日(木)は『ポコラート全国公募展』の最終日でもあります。
講義前にゆっくり展覧会を楽しむのもおすすめです。
(受講のお申込はコチラから)
3331 小西七重