「すばらしい」芸術とは、何でしょう?
著名な作家の作品でしょうか?
完璧な技術で作られた作品でしょうか?
そもそも、「すばらしい」という言葉に値しなくても、鑑賞者のこころを打つ魅力があればそれは十分、芸術なのだと思います。
現在開催中の『ポコラート全国公募展vol.6』では、作品そのものと向き合い、それ自体から受ける「何か」を感じ取ってもらいたいと考えています。
なので作品キャプションには、作品名と作家名のほか、肩書きも素材も制作技術も記載していません。
ただただ作品と向き合い、作品のちからを感じ取ってほしいと願っています。
展覧会期も折り返して残り2週間となりました。
たくさんの作家の中から、ほんの一部ですが、作家の声をみなさんにお届けしたいと思います。
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「画家ジャン・デュビュッフェの思想に強い感銘を受け、私は毎日労働をする傍ら、新しい絵を生み出すための訓練をしている。私はこの世の中に見たことのないイメージが存在する状況がいつも悔しい。そして、本物、偽物、内側、外側、個人、他者、、、といったいくつもの解決しない疑問と闘っている。
この公募展に出展することは私にとって大きな挑戦であり、"この公募展の中にある私の作品"という事実が、今回の私の作品の本質かもしれない。だから私の作品単体ではなく、他の出展者の作品もよく見てほしい。その比較の中でどのように見えてくるのか、が気になる。」
室井悠輔(ポコラート全国公募展vol.6 出展者)
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表現者にとって、年齢や性別はもちろん、障害の有無、美術教育の有無を超えて、
表現したいという強い想いが何よりの原動力になることを感じさせる室井さんの作品。
ひとつの完璧な絵画を描ききることより、日々浮かんでは消え・変化する状況を描いたドローイングは、切実な程の「描くこと」への緊迫感が感じられます。
154点の作品それぞれが、誰かのこころに響く力強さを秘めています。
ぜひご来場いただき、あなたのこころに響く「芸術」を見つけてください。
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ポコラート全国公募展vol.6
開催日時:2016年7月16日(土)~8月8日(月)
開場時間:12:00−19:00 ※入場は18:30まで 火曜休場
会場:アーツ千代田 3331 1階 メインギャラリー(東京都千代田区外神田6-11-14)
入場料:一般500円 65歳以上300円 中学生以下無料
※ 千代田区民は身分証明書のご提示で無料
※ 障害手帳をお持ちの方とその付き添いの方1名は無料
※ 会期中はワークショップも開催しております。展覧会とあわせてご参加ください
詳しくはこちら
3331 Arts Chiyoda
執筆・編集:伊多波
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3331クリエイティブ・オフィス「司3331」トークイベントレポート
~メディアとエリアリノベーション~ ゲスト:馬場正尊、佐藤直樹
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7月18日の海の日。
夏らしく晴れて暑い一日となったこの日、「司3331」1階101号室を会場にオープントークイベントが行われました!
第2弾のゲストは、建築家の馬場正尊さん(OpenA)とアートディレクターでデザイナーの佐藤直樹さん(Asyl)です。
馬場さんは建築家、東京R不動産の代表として、また佐藤さんはデザイナー、3331などのアートディレクターとしての活動でも広く知られていますが、お二人は2003年よりスタートしたアート・デザイン・建築の複合イベント「CET(セントラルイースト東京)」の仕掛人でもあります。
今年の5月に出版された馬場さんの新刊「エリアリノベーションー変化の構造とローカライズー」の内容に触れながら、CET当時のことを振り返りつつ、現在このエリアに対してお二人が考えていることなど幅広く語ってくださいました。
テーマは「メディアとエリアリノベーション」
【『エリアリノベーションー変化の構造とローカライズ』/学芸出版/2016:馬場さんの新刊。ブックデザインはAsylの佐藤さんと遠藤さん。エリアリノベーションの例として前回のトークゲストである嶋田さんも寄稿しています】
まず、お二人は2003年に始まり(開始当時の名称はTDB-CE(東京デザイナーズブロック・セントラルイースト)、2010年に終了したCETについてお話を進めます。
佐藤さん:「CETを始めた当時はエリアリノベーションなんて全く考えてなかった」
馬場さん:「このエリア(神田・日本橋)は空いてる物件がたくさんあって、それを見つけていくのがただ単純に楽しかった。」
この借り手のいない物件を2週間だけギャラリーとして使わせてくださいとお願いして回ったのが始まりで「アートイベントをやろう!」という意図も無かったとのこと。
テーマにあるメディアについては、CETが始まった当時(2003年)はまだ今のようにFacebookやtwitterがない時代。
この時にとても面白く機能したメディアはなんとメーリングリスト!
核のメンバーのみで始まったメーリスに、勝手に誰かがCCにアドレスを追加していくことで、情報にアクセスしてくるひとが増えていったそう。
最終的には本文にたどり着くまでにちょっと時間がかかるほどのCCの多さになっていったとか。
そこで共有された情報によって、CETの同時多発的に起きたプロジェクトそれぞれに興味がある人が集まり、どんどん規模が大きくなっていったようです。
馬場さん:「プロジェクトが熱くなる瞬間っていうのはメーリスでも伝わってきたよね。」
振り返りながら語るお二人の共通の見解として、CETは「とても"偶発的"に起こった」ということ。
「変な事件(出来事)を起こしたい」「見たことのない風景を見てみたい」というかなり実験的な動機によって展開しつつ、まちの人や行政の人たちとどうやって関わっていくべきなのかというのを、試行錯誤していたそうです。
その時にうまく進むように間に入ってくれたのが、清水義次(アフタヌーンソサイエティ/アーツ千代田 3331代表)と神田で生まれ育ち、地元の商店街やお祭りを仕切っていた鳥山和茂さんのお二人。
彼らの存在が無ければうまくいかないことがたくさんあっただろうと、まちとリンクしていった瞬間を振り返りました。
【CET運営時のメンバー組織図】
話はCETからお二人がまちやエリアに対して考えていることに移っていきます。
佐藤さん:「神保町の辺りもね、大きなビルが増えてきて昔の良さがなくなっちゃうんじゃないかと思っていたけれど、行ってみると残るものはちゃんと残っている。元気になる部分がある方が人の流れができてまちとしてはうまく機能するんだよね。」
馬場さん:「この通り(神田司町周辺)の風景的な、構造的な面白さっていうのは同じ幅の小さい建物が並んでいることですよね。こういうのは日本橋のほうにはないんです。小さいポーションがわしゃわしゃとある感じがいい。」
2003年に中目黒から日本橋に事務所を引っ越した馬場さんは「変化するしかないという雰囲気に惹かれた」と移転の理由を語りました。「成熟しているところにいると不安になる」とも。
そして最近、また引っ越しをされて今度は浅草橋の広いワンフロアを借りたそう。
今回はOpenAの事務所だけでなく、シェアオフィスとしてさまざまな人が一緒に働く空間になっているそうです。
馬場さん:「ここは屋根のある公園の中で働いている感じ。複数の組織や個人が、それはデザイナーでも工務店でも弁護士でもいいんだけど、がらんと見渡せるところで一緒に働いているのがいいなって」
佐藤さん:「それだけ人がいたらまた仕事も生まれるし、何か動きが出てくるだろうと。そのエリアとは連動したいと思う?」
馬場さん:「今はその屋根のある公園でいろんな人が働いてる風景を見たいというのが先だけど、その動きがエリア化していったら楽しいんでしょうね。」
と、1つの場所でさまざまな業種の人たちが働くことによって生まれる面白さも語っておられました。
佐藤さんはAsylの事務所を渋谷区の桜ヶ丘から2007年に3331に移された後に、2015年神田錦町という司3331がある司町の隣町に、ギャラリーSOBOを併設し移転されました。
佐藤さん:「このエリアがどう変化していくんだろうということに興味があったし、なんか直感があった。」
またそのAsylが面していて、秋のアートイベント「TRANS ARTS TOKYO」の舞台の1つでもある五十一八(ごとういっぱち)通りにも触れ、
佐藤さん:「ここって元々は市をやっていたんですね。で今はもうやってない。その残念な感じがやっぱりある。必要とされるもの(売られるもの)は確実に変化しているけれど、そのコンセプトとか市だった記憶というのはまちから消えないと思う。(佐藤)」
とすでにある土着の文化・記憶を保ちながら、リノベーションすることについて言及されていました。
またお二人は元々中目黒や渋谷にいた時のことに交え、それらの場所が今や"おしゃれ"な場所として認知されているけれど昔はそうではなかったこと、またそのエリアで起きたような変化が今度はこちらのエリア(神田・日本橋周辺)で起きるのではないかとも仰っていました。
佐藤さん:「ここは文化価値が変わる気がする。ここはユニークでしかも小さいものの集積しているエリアだから。」
その「昔は市だった」という話から、「司3331」にお店も入るのがいいんじゃないかというアイディアが膨らんでいきました。
馬場さん:「もはやお店は路面でやる必要がなくなってきてるからね。」
佐藤さん:「他と違う面白いことをやるような人たちが入ってくるといいよね。」
最後はお二人のお話を受け、3331 Arts Chiyoda やコマンドNを立ち上げて神田のまちで活動して来た中村政人が、CETが行われていた時のことについて振り返ります。
中村:「僕はコマンドN(自身の会社)を1996年にこの周辺で立ち上げていて、CET当時は『なんだかデザイナーさんたちが面白そうなことやり始めたなぁ』と思ってちょっと距離を置いて見ていた。今思えば、デザインと建築とアートでアプローチの仕方は違うんだけど、このエリアに興味を持って動きをつくっていたという意味ではつながってて、そこに3331がオープンした流れの源がある。」
また現在の大手町周辺の開発や少しずつ起こっている小さな動きも含めて、「神田はわくわくするエリア」だと。
まだまだ聞きたいことがたくさん!と思う、あっという間の1時間半でした。
ここでしか聞けない貴重なお話をしてくださった馬場さんと佐藤さん、また暑い中ご来場いただいたみなさま、本当にありがとうございました!
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司3331HPはこちら
平山(コマンドN)/編集:伊多波(3331 Arts Chiyoda)
現在、3331 Arts Chiyoda のメインギャラリーでは、「ポコラート全国公募展vol.6」を開催中です。
6回目を迎える「ポコラート全国公募展」ですが、みなさんはご覧になったことがありますか?
「『ポコラート全国公募展』は、障がい者アート支援事業として始まりましたが、今は、障がいあるなし関係なく、あらゆる形の芸術表現の新境地切り開き、可能性を開く人々が切磋琢磨し競い合う場所です。障がいのある人も、プロの作家も、美大生も様々な人が参加しています。公募展では入選作品を展示し、他ではみたこともないような表現に出会えます。
そして、新しい表現発掘の場としてアーティストにも人気があります。」
展覧会制作を担当するコーディネーターの嘉納礼奈は、回を重ねるごとにあらゆる作家が「切磋琢磨し競い合う場所」になってきたと感じています。
ただただ日々の中で黙々と何かを作り続けていた人の発表の場所としてスタートし、
プロのアーティストと同じく大きなギャラリーでたくさんの人に作品の魅力を届ける場所となり、
障がいの有無を超えて「表現」を介して集う場所となった「ポコラート」。
有名な作家は誰一人いませんが、誰も見たことがない作品があふれる展覧会です。
【(左)《キャッスルホーム》横山 涼/(右)《表裏界隈#1〜#10》(部分)田中七星】
そして、7月18日に行われた「ポコラート会議」では、ポコラート出展者をはじめ、全国各所から福祉の専門家、アートに関わる法律の専門家、本展覧会審査員やアーティストが集いました。
会議では、「創作の場所」「発表の場所」、そして作品が作者の手を離れて希望者に購入されることで生じる社会との関係や問題点などについて意見が交わされました。
近年ますます注目される障がい者の芸術表現の行く末を、みんなで考えていこうというポコラートならではの試みでした。
【作品が体育館を埋め尽くした「一挙公開」展では、1,632点すべてが並びました】
今年の「ポコラート全国公募展vol.6」の総応募点数は1,632点。
それらをすべて公開し、審査員と来場者の投票のもと入選作品を決定する春の「一挙公開」展。
選ばれた154点の入選作品が展示される夏の「ポコラート全国公募展」。
されに、千代田区長賞や来場者投票によるオーディエンンス賞などを受賞した作品を発表する冬の「受賞者展」。
以上の3つのステップでポコラートは1年間を通じて展開しています。
入選展は8月8日(月)まで。
あなたの一票が作家を次のステップへと後押しするオーディエンス賞への投票は7日までです。
ぜひ一度ご来場いただき、年間の「ポコラート」の活動にご注目ください。
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「いろいろな作品が集まることから、これまでの作家・作品・鑑賞者という美術の要素をくつがえす作品が集まっています。アール・ブリュット、アウトサイダーアート、ポコラート、さまざまな名称が飛び交いますが、自分なりの視点をみつけていただきたく思います。」
〜「ポコラート全国公募展」コーディネーター 嘉納礼奈〜
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ポコラート全国公募展vol.6
開催日時:2016年7月16日(土)~8月8日(月)
開場時間:12:00−19:00 ※入場は18:30まで 火曜休場
会場:アーツ千代田 3331 1階 メインギャラリー(東京都千代田区外神田6-11-14)
入場料:一般500円 65歳以上300円 中学生以下無料
※千代田区民は身分証明書のご提示で無料
※障害手帳をお持ちの方とその付き添いの方1名は無料
3331 Arts Chiyoda
執筆・編集:伊多波
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3331クリエイティブ・オフィス「司3331」プレオープン記念トークイベントレポート
〜住み、働き、生きることのリノベーション〜 ゲスト:嶋田洋平/モデレーター:中村政人
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6月29日に晴れてお披露目となったアーツ千代田 3331のクリエイティブ・オフィス「司3331(つかさ さんさんさんいち/愛称・つかさん)。
3331Arts Chiyoda から少し離れた神田司町の3階建てのビルを丸ごとリノベーションした施設です。
この記念すべきお披露目の日に、建築家の嶋田洋平さん(らいおん建築事務所)さんがトークゲストとして来てくださいました!
ダイジェスト映像はこちら
嶋田さんはらいおん建築事務所の他に、北九州家守舎、リノベリング、都電家守舎などの代表取締役を務めながら、リノベーションスクールというプロジェクトの代表も行っているという、笑顔がすてきでとてもエネルギーに満ちあふれた方です!
そんな嶋田さんが出身である北九州市での活動から現在まさに取り組んでいる横浜でのプロジェクトまで、過去5年間にわたるまちづくりとリノベーションの事例を紹介してくださいました。
テーマは「専門家/実践者と語るリノベーションによる社会課題の解決の可能性」。
話の始まりは約60年前の八幡製鉄所があった時代の北九州市。
当時はその発展が人々の誇りとなっていたようですが、その後公害に悩まされていったとのこと。
「技術的にきれいな空や、海は戻ってきたけれど、それで本当に解決したことになるのだろうか?」
そんな問いが嶋田さんの中にあったそうです。
またその地域は、その後ゆるやかな人口減少に陥り、空き家や空きビルがどんどん増えたことが問題となりました。
そして2010年、北九州市がアーツ千代田 3331の代表でもある清水義次をプロデューサーに招き、遊休不動産(使われなくなった空き家、空きビル)の活用と雇用を生み出そうというプロジェクトが立ち上がったそうです。
(以下、嶋田さんの資料より)
15年間空き家になっていたこのスペースが... >>>>> 事業者が7組入るシェアオフィスに!
再建が断念された火災跡地を... >>>>>>>>>>>> オープンテラスのイタリアンバルに!
こんな開放的なオープンバルが近くにあったら毎日通ってしまいそうです。
このようなプロジェクトの結果...
なんと4年間で新規雇用が385人もあったのだとか!
さらにこの全体の取り組みを通して商店街の歩行者通行量が増加し、まち自体のにぎわいが増したというお話も。
嶋田さんのお話の中でとても興味深かったのは、建築家という肩書きながら取り組んでいる内容はとても多岐にわたっているということ。
その中でも不動産オーナーさんたちと掛け合い、使われていなかった場所を新たに息吹かせて、
そこでやる気のある魅力的な人たちが働けるようにするという「家守」としてのお仕事は大変興味深いものでした。
その後は現在取り組まれている横浜・伊勢佐木町でのプロジェクトのお話。
伊勢佐木町の歴史そのものとも言える、築90年になる伊勢ビルの地下1階にある空間をプロジェクトメンバーの一人としてリノベーションしているそうです。
地下特有のクールな空間。
この空間と運営会社の名前は「THE CAVE」。この洞窟のような空間から会社の名前もきているんですね。
今後アートを軸にした半公共空間としてオープンするそうで、コワーキング・スペースを併設し、アーティストやクリエイターが滞在する拠点となるとのこと。
オープンが待ち遠しいですね!
また、THE CAVEさんと面白い試みを行っているバルの名前はなんと「333(さんさんさん)」!
聞き役の中村も縁を感じずにはいられませんでした。
「333」さんは農家さんと直接取引をすることで、農家さんに最大限の利益を生み出し、さらに新鮮な野菜をお客さんに届けるというやり方をしているそう。
いろんな角度から社会課題の解決の切り口が見えてきます。
嶋田さんは最後に、
「一つ一つのプロジェクトは小さいものだけど、僕は塵もつもれば山となるというのを信じている。
ある明確な意志を持って、そのプロジェクトを進めていくと、連携してくれる人たちがでてきて結果的に大きくまちを変えていくんだろうと思います。」
と語っていました。
司3331も小さな場所ではありますが、ここに入居する人たち、神田司町のみなさん、
そして外からやってくる人たちも巻き込みながら、活気あふれる面白い場所になっていければいいなと思います。
嶋田さんのトークを聞いた参加者のみなさんは、「すごいものを聞いてしまった!」と興奮覚めやらぬ様子でその後も遅くまで歓談されていました。
大変ご多忙な中、貴重なお話をしてくださった嶋田さん、本当にありがとうございました!!
平山(コマンドN)
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司3331WEBサイト