3331 Arts Chiyodaのコーディネーターによる、1週間の韓国旅行レポートをお届けします。
まずは、ソウル市内の最新アート/デザイン系スポットをエリアごとにご紹介。
●景福宮(キョンボックン)を挟む東西エリアへは、とにかく行くべし。
景福宮といえば、世界遺産にも登録されている観光スポットですが、その東側の三清洞(サムチョンドン)エリアには、韓国随一のギャラリー街が広がっています。中でもArtsonje Centerは、もっとも大きく、常に国内外の見るべきアーティストを紹介し続けている注目のアートセンターです。
その他、2007年にオープンしたMONGIN ART CENTERや老舗のKUKJE GALLERY、PKM Gallery、ARARIO GALLERYは、ソウルに行った際にはなにはともあれ訪れてみてください。周辺には他にも、韓屋をリノベーションしたギャラリーや小規模ギャラリー、おしゃれなカフェなどもたくさんあります。
一方、景福宮の西側のエリア通義洞(トンウィドン)にも、スペースやギャラリーがいろいろあります。
特に気になったのは、保安旅館という日帝時代からあった旅館を改造したアートスペース。
私が行った際には残念ながらお休みで、中を見る事はできませんでしたが、こんな感じのようです。
元旅館を改装したアートスペース
ここは2006年まで旅館として使われ、2007年以降、不定期で写真展等が行われきたそうですが、この春からはより活動が増えるよう。
再開発があちこちで進行中のソウルで、この古い建物をあえて残し、アートの場として使っていく。今後どのような企画を展開をしていくのが、とても気になります。
そのすぐお隣には、2003年から活動を継続中の若手アーティストのための展示スペースBrain Factoryがあり、その角を左に折れると、古本屋Gagarinやカフェmk2、gallery FACTORYなどのおしゃれなスポットが並んでいます。
また、この辺りの細い路地を入っていくと、韓屋の家並みの中にリノベーションした小さなギャラリー(またはデザイン事務所?)のようなものも見つけられ、歩いているだけでも楽しいです。
若手アーティスト、リ・ヒョクチョンの展覧会を行なっていたBrain Factory
●エッジなものは弘大(ホンデ)から上水(サンス)へ
美術学部が有名な弘益大学のある弘大エリア(3331ディレクターの中村政人もこの大学院に留学していました!)。
以前から、焼き肉屋さんに居酒屋、カフェやブティック、クラブにライブハウスと、若者文化の街として有名ですが、有名美術大学のお膝元ということもあり、街を歩くと、至る所に壁画やクリエイティブな雰囲気を見つけることができます。90年代末にソウルに誕生した4つのオルタナティブ・スペースのうち、サムジー・スペース(昨年閉館)とLOOPがこのエリアのアートを牽引してきましたが、他にも2007年KTという韓国の企業が運営する複合文化施設SangSangMadang(サンサンマダン)がオープンし、地元の若手作家をフィーチャーしたアニュアルのグループ展などを開催しています。
さらに、昨年11月、ソウル文化財団が若手作家の展示および製作スタジオとして利用可能なSeoul Art Space_SEOGYOもオープンさせました。このSeoul Art Spaceは現在市内に6カ所オープンしており、年末までにさらに4つほどオープンする予定だとか。(このSeoul Art Spaceについては、レジデンス事情でまとめて後日詳細を書きます。)
Seoul Art Space_SEOGYO展示スペース
と、ここまでを見ると、やはり弘大は面白いことがどんどん起こっている街なのですが、
どうも最近では不動産賃料の高騰のため、小さくて意思のあるお店は少しずつホンデのメインエリアから遠ざかっているようです。
特に地下鉄6号線上水駅の近くに、面白いお店が集まってきているのだとか。たとえば、音楽家のオーナーが中心となって酒造工場だった建物をリノベーションし、1月にオープンしたばかりの「Anthracite(無煙炭)」。
現在は建物の2階が広々としたカフェスペースで、若いアーティストのグループ展等も行っているのですが、1階もまもなくギャラリーとしてオープンさせるのだとか。サイトがないので、一般の方のブログに掲載されている写真をご覧ください。
他にも、今年3月にオープンしたTHE BOOK SOCIETYは、まだ20代と思われるキュレーターと映画を学んだパートナーとが2年前に立ちあげたインディペンデント出版社media busが運営するお店です。この「インディペンデント出版社」という言葉が聞き慣れず気になっていたのですが、二人に尋ねてみると、日本でいうところのZINEのことだとか。ZINEにしてはページ数も多く、おもしろいデザインや装丁の本が充実しており、更に尋ねてみると、やはり印刷費が日本の半額以下であることと、韓国の場合、個展だとしても展覧会助成金が潤沢に貰えるので、カタログを作る予算も大抵捻出可能だとのこと。このお店では、書籍の企画から行うオリジナル出版物のほか、美大生の展覧会本から著名アーティストの展覧会カタログやローカルなアートプロジェクトのドキュメントブック、海外の雑誌まで購入可能です。
また、小さなスペースではありますが、トークイベント等も開催しています。彼ら、昨年に続き今年もZINE'S MATEに参加予定だそう。
ちなみにお店の看板▲マークは、アムステルダム在住の韓国人グラフィックデザイナー、キム・ヨンナさんによるもの。彼女がアートディレクターを務めるデザイン系雑誌「GRAPHIC」は、韓国でおそらくいま一番かっこいい雑誌ではないかと思われます。韓国語と英語のオールバイリンガルで、日本でもネットから購入可能です。
インディペンデント出版は、英語だとSelf Publishingですが、なんだか今韓国で流行のようにもなっているみたいです。
先にも書いたように安価で印刷できることも関係しているのでしょうが、見た目のデザインはかっこ良くても、本としての内容は大した事がない、というものも多く生まれているのを嘆く人もいました......。
いずれにしろ、5年前のソウルではアート系書店さえ皆無に等しかったのを考えると、変化のスピードに驚くと共に、20代後半の世代が色々なシガラミから解放されてがんばっているのかな?という感じでした。
●新しいアートスポットの誕生!?
梨泰院(イテウォン)といえば、ソウルの外国人街として有名で、通りには多くの多国籍レストランが立ち並び、道行く人々も韓国人よりも外国人の方が多い。更にはゲイタウンとしても有名、というちょっと変わった街です。なにやらそこが、次のアートスポットになりそうな予感です。
○POST POETICS
元々グラフィック・デザイナーとして活動していたJowanさんという方が3年前に立ち上げたショップ。同じ建物の2階には大人のおもちゃショップが入っている一見怪しげなビルですが、POST POETICSに一歩入ると、なんとも心地よい空間がひらけます。笑 きれいにレイアウトされた色とりどりのかなりコアな雑誌や書籍、CDやDVD、植木の緑と壁の白、とにかくセンスが良いなぁと思いました。日本では入手困難な雑誌も取り揃えてあります。昨年に続き、今年もZINE'S MATEに参加予定とのこと。
○SPACE HAMILTON
2009年10月に「ハミルトン中古家具店」を改造してオープンしたスペース。1階と2階が10m×10m程度のスペースで、階段の踊り場の奥にも小さなスペースがあり、私が訪問したときにはそこでも展示をしていました。ホワイトキューブでもオルタナティブ・スペースでもなく、ジャンル間の融合を標榜しています。パッと見はかなり型破りな雰囲気ですが、設立したのは、桂園(ケウォン)デザイン芸術大学。アーティストとしても有名なホン・ソンミ教授がディレクターを務め、キュレーターはSound Effects Seoul等を企画しているヤン・ジユンさん。オープン以来実験的なプログラムを行っています。またその仲間たちで作っているウェブサイト「podopodo.net」も、批評やインタビュー、討論会の記事など、興味深いコンテンツがバイリンガルで並んでいます。
SPACE HAMILTON外観
準備中のSPACE HAMILTON展示室
○ccul
ななんと、先週4月16日にも、梨泰院に新しいスペースがオープン。その名もccul(꿀:蜂蜜の意)。カフェ、ラウンジ、バーと展示空間も備えた場所で、先日の六本木アートナイトでも巨大な造花や色とりどりのプラスチックカゴを使った作品を展示していた大御所チェ・ジョンファさんがオーナー。一方、INSAアートスペース(Arts Council Koreaが運営)のキュレーターとして活躍していたキム・ヒジンさんが、この春、老舗オルタナティブ・スペースpool(풀:草の意)のディレクターに就任(poolも90年代末に誕生した4つのオルタナティブ・スペースのうちのひとつです)。以前からクギ洞というエリアにあったpoolの建物をリノベーションし、同じ日にリニューアルオープンを迎えたのですが、彼女がここcculの共同キュレーターも務めており、今後2年間、cculの中に「ccul pool」という場所も運営していくとのこと。
上記3件はどれもほど近い距離にあるので、ソウルに行かれる方は、ぜひあわせてチェックしてみてください。
韓国は大統領制なので、トップが変わるとその下で働く人たちが全て変わる、ということが起こります。
そして学閥というのがまたすごい。日本にももちろんありますが、それ以上に色々なところで影響を与えているようです。
また、国や市の文化予算は日本の7倍?もあり、伝統芸能からコンテンポラリーまで、様々な助成金や機関が充実しています。特にここ数年はソウル市と京畿道の文化予算がものすごく、とにかく箱ものの整備とそこでのプログラム予算が驚くばかりの金額です。
次回は、そんなソウル市と京畿道が作ったいくつかのレジデンス施設のほか、アーティスト・イニシアティブで地域に根ざした活動を行っている機関をいくつか紹介します。
3331 長内綾子